一人の男、ハワード・スペンスが抱える孤独や失望感、愛、家族…それらすべてがアメリカの美しい自然を通して暖かく描かれる―。
伝説の名作『パリ、テキサス』(84)から20年、ヴィム・ヴェンダース監督と脚本のサム・シェパードが再びタッグを組んだ待望の最新作『アメリカ、家族のいる風景』。プロモーションのために来日したヴェンダース監督が記者会見を開きました。
『パリ、テキサス』から20年経ち、そろそろいいだろうとサムに電話したんだ。
二人のタッグが20年ぶりに復活した理由について監督は、
「『パリ、テキサス』の脚本、監督を終えて、当時まだ二人とも若かったが、二人のキャリアの中でこれ以上パーフェクトなコラボレーションはあり得ないと考え、しばらく一緒に仕事をしないでおこうと思ったんだ。20年が経ち、そろそろいいだろうとサムに電話をしてみるとサムも同じ考えだった。そこから我々の一つの扉が開いたのです」
本作では、『パリ、テキサス』では実現しなかったサム・シェパードの主演。
「僕は『パリ、テキサス』でサムに出演してくれ、と何度も頼んだが断られてしまった。『演じる自信がない』と言う理由だったが、本当の理由は、サムには当時恋焦がれていた女性がいてね。ジェシカ・ラングなんだが(笑)。彼女との共演作の仕事に入ってしまったんだよ。僕が彼でも、きっとジェシカとの共演を取ったと思うけれど(笑)」
サムのエピソードを披露してくれた監督ですが、本作ではその時の経験を生かして、こんな作戦でサムに迫ったのだそう。
「わざとサムに出演を頼まずにいて、1年ぐらい経って脚本が半分ほど出来上がった時、読みながらサムに『脚本が全部仕上がったら、まず一番にジャック・ニコルソンに見せようと思っているんだ』と言ってみた。真の"カウボーイ"でもあるサムは無言でタイプを打ち続けていたが、ちょっとイライラした声で『アイツ、馬にも乗れないんだよ!』って言ったんだ(笑)。彼のこの発言で、僕は内心『主演は決まったな!』と思ったよ(笑)」
その後3年かけて脚本は完成。監督のたくらみは見事に成功して、サムの主演が決定。かつて西部劇のスターで、今はすっかり落ちぶれてしまった男・ハワードを繊細に演じました。
監督は「一緒に仕事が出来て楽しかった」というティム・ロスについて、「アメリカの砂漠に迷い込んだイギリス人ということで、ティム・ロスのサター役を考えたんだ」。
スーツを着込んだ不思議ないでたちの賞金稼ぎが誕生しました。
また、サターがハワードの母に会いに行くというシーンがありますが、
「ティム・ロスは、ほんの短い二つのシーンでの登場予定だったんだが、とても機嫌が悪かった。『何が気に食わないんだ?』と聞いてみると、『僕が最も敬愛する女優エヴァ・マリー・セイントと共演しているというのに、一緒のシーンがないとはどういうことなんだ!』というんだ。それをサムに言うと、サターがハワードの家に行ってクッキーを食べるシーンを書いてくれたんだ。あれは必要のないシーンだったけれど、ティムのために作ったシーンなんだ(笑)」
「ハワードが訪れるモンタナ州ビュートでの撮影中、またティムのご機嫌が悪いので『今度は何だ?』と聞いてみると、『ジェシカ・ラングと共演することが僕の長年の夢だったのに…』と言うので、ポテトの付け合せを説明するシーンをサムに書いてもらったんだ。全く必要のないシーンなのに…(笑)」
このエピソードには会場も大爆笑。このエピソードを知って本作を観ると、ティム・ロスがよりキュートに見えますよ。要チェック!
『アメリカ、家族のいる風景』は、僕のアメリカ決別の映画でもあるんだ。
監督の作品では"女性"が大きな意味を持って描かれています。監督は女性をどのように捉えているのでしょうか?
「男は"負け犬"たち。ハワードに至っては落ちぶれてどん底にいて、自分の世界でしか生きられないでいる。本作で出演している女性たちはみんな"真のヒーロー"なんだ。現実を見据え、把握して、それにきちんと対応して生きている。女性たちはひとつの文化を持ち合わせ、真実を受け入れる能力も持っている。言葉を使って自分の気持を相手にきちんと伝える能力を持っている。男はほとんど持ち合わせていない人が多くて、すぐに喧嘩をする(笑)。本当に女性は素晴らしい」
「本作で、ハワードはまだ大人になりきれていない、と考えられる。人を許すという気持が大切なんだ」
ヴェンダース監督の作品には、音楽も重要な要素になっています。今回は、歌手でもあり作曲家としても知られるT・ボーン・バーネットを起用。
「アメリカ北部でストーリーが展開するこの作品にユニークな音楽をつけたいと思っていたんだ。それにはT・ボーンが理想的と考え、無理やり参加を頼み込んだんだ。タイトル曲以外はほとんど実際に彼が歌っているんだよ」
T・ボーンの楽曲はヴェンダース監督の世界に見事に融合して、美しい世界をみせてくれます。
アメリカには96年から8年住んでいたという監督。アメリカへの想いを語ってくれました。
「僕がアメリカにこだわるのは、アメリカで起きる社会的な現実はその後、世界的に広がる事が多い。僕はアメリカで起きる事を"近未来"と考えている。もちろん、ずーっとアメリカの風景が好きだと言う事もある。アメリカの持つスケール感は、見ているだけでイマジネーションがどんどん湧いてくるところが魅力なんだ」
「『アメリカ、家族のいる風景』の映画に5年近くかかってしまった。『ラウンド・オブ・プレンティ』も撮影していたからね。『アメリカ、家族のいる風景』は僕のアメリカ決別の映画でもあるんだ。出来る限り美しいアメリカを描いたつもりだよ」
今はアメリカからドイツに戻り、しばらくは次の映画についての準備期間中という監督ですが、監督がアメリカ決別の映画という『アメリカ、家族のいる風景』で監督が観客に伝えたい事とは何でしょうか? と質問してみました。
「一番伝えたかったテーマは、アメリカは色々あったけれど、いまだに大変美しい国なんだということ」
「僕は、父を愛しているということ。僕は父を愛し、尊敬して育ちました。父は常に僕の側にいて、アドバイスをしてくれていた。時にはケンカもしたけれど、大人になって親友になれた。今、父親不在で育った子供たちが増えているが、父親の存在はとても大きい。男にとって子供を持ち、自分が父親になることが必要なんだと伝えたかった」
「ハワードのように"待つ"のではなく、早く穴埋めする努力をして欲しい、と言いたい。この映画はプロポーズにするのに30年も待つんじゃないよとも言っているよ(笑)」
最後に監督のちょっといたずらっぽい笑顔で、会見は終了しました。
自分の本当の居場所は何処なのか? 自分の人生の持つ意味について、深く考えさせられる映画です。
美しいアメリカの映像に引き込まれる、珠玉の作品『アメリカ、家族のいる風景』。『パリ、テキサス』を観ていない人は、ぜひこの機会に観ることをおすすめします。
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